新しい学び、成功のコツは講師選び...ヤクザ専門ライターはいかにして運命のピアノの師と出会ったか?

楽譜も読めないところからのスタート(画像はイメージです):niekverlaan_pixabay
<年齢を重ねてからの挑戦は勇気がいる。最初の一歩で最大のハードルが教室選びだ。しかし、大人には熟慮するための知恵と経験がある>
暴力団取材の第一人者がピアノのレッスン記を書いた。ベストセラー『サカナとヤクザ 暴力団の巨大資金源「密漁ビジネス」を追う」』(小学館)などの硬派なルポで知られる鈴木智彦氏による『ヤクザときどきピアノ』(CEメディアハウス)だ。
50歳を過ぎて一からピアノを習い始めた鈴木氏である。大人の稽古事に大切なのは併走してくれる師の存在だ。職業柄、磨き抜かれた独自の観察眼で氏は運命の人、レイコ先生と出会う。
5年越しで書き下ろしたルポ『サカナとヤクザ』をついに校了した。大仕事を終えた高揚感は、ライターズ・ハイをもたらした。自由の身で観たのが映画『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』だった。劇中、ABBAの名曲『ダンシング・クイーン』に、なぜか涙が止まらなくなった。そして思った----ピアノでこの曲を弾きたい。
「『ダンシング・クイーン』が弾きたいんです」
翌日になっても高揚感は消えなかった。恋に落ちたような感覚があった。ただし相手はピアノである。燻(くすぶ)っていたピアノへの情熱は一気に燃え上がり、俺の行動力は躁病の極北だった。止めどない万能感が溢れ、往年の竹下景子でも落とせそうな気がした。もし俺が政治好きなら、翌年春に控えていた統一地方選挙に立候補していたことだろう。