コラム

「騙されるAI」0.001%の誤情報の混入で誤った回答を導く巨大な罠

2025年05月05日(月)10時46分
「騙されるAI」0.001%程度の誤情報の混入が誤った回答を導く

Deemerwha studio -shutterstock-

<AIは誤情報にきわめて脆弱、人間よりもはるかに騙されやすい。やろうと思えばコストパフォーマンス高く汚染を実行し、AIを騙すことができる>

近年、AIの利用が拡大している一方で、AIが人を「騙す」ことも増えてきている。ハルシネーション(幻覚)はその代表例で、存在しない資料や人物、時には判例までもをでっちあげて、あたかもほんとうにあるかのように回答するのだ。

また、システム開発でAIにコードを生成させることも増えているが、そこでも存在しないパッケージを利用するといったハルシネーションが問題になっている。

しかし、逆にAIが騙される事例が増加していることはまだあまり知られていないようだ。


AIを手懐けるLLMグルーミング

LLMはラージ・ランゲージ・モデルの略で、ChatGPTなどの最近注目されているAIはLLMである。莫大なデータから学習している。

当然のことながら、学習のもとになるデータが正しくなければ回答も誤ったものとなる。信頼できないデータが混入することをデータ・ポイゾニングと呼び、よく「ゴミを入れればゴミが出る」と言われる。

人間が吟味した正しいデータだけ渡せばよいと考えるかもしれないが、人間がいちいち内容を吟味できるようなデータ量ではない。信頼できるようなデータ、たとえば科学論文のデータベースならよいかというと、そこには現在では誤っていることがわかっている過去の論文も多く含まれている。

大手メディアなら正しいわけでもなく、どのメディアでも誤報があるし、過去に報道した事実が新しい事実で更新されることもある。科学的事実も社会的事実も時とともに更新される以上、過去に正しいとされたものが「誤ったもの」になることは珍しくない。

しかし、人間はいちいち過去の記録に「更新済み」などと書き加えたりしない。やっかいなことに、新しい科学的事実や社会的事実は立証されるまで、誤りもしくは不正確な未検証のものとして扱われ、陰謀論扱いされることも少なくない。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハッカー、「テレメッセージ」の広範なデータ傍受か 

ビジネス

ビットコイン過去最高値更新、リスク選好度の改善続く

ワールド

フィンランド、ロシア国境に35キロのフェンス完成 

ワールド

イスラエル軍が外交団に警告射撃、ヨルダン川西岸 各
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:関税の歴史学
特集:関税の歴史学
2025年5月27日号(5/20発売)

アメリカ史が語る「関税と恐慌」の連鎖反応。歴史の教訓にトランプと世界が学ぶとき

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    人間に近い汎用人工知能(AGI)で中国は米国を既に抜いた──ただしそれは異形のAI
  • 4
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 8
    トランプは日本を簡単な交渉相手だと思っているが...…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    【裏切りの結婚式前夜】ハワイにひとりで飛んだ花嫁.…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 5
    コストコが「あの商品」に販売制限...消費者が殺到し…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「太陽光発電」を導入している国…
  • 7
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 8
    「空腹」こそが「未来の医療」になる時代へ...「ファ…
  • 9
    「運動音痴の夫」を笑う面白動画のはずが...映像内に…
  • 10
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 5
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 10
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
OSZAR »